こんにちは! モユルデザインです。 
今日は、さいきんとても印象に残った書籍がありましたので、こちらでご紹介してみようと思います。
黄色い家

黄色い家

川上未映子 著

舞台は1990年代の東京。主人公の花は母の知人・黄美子とともにスナック「れもん」を営業。しかし、ある日火事で仕事を失い、生活を守るために犯罪に手を染めることに…。

 

 

 

川上未映子さん作の『黄色い家』です。

この物語のキーワードは「お金」です。私たち自営業の人間には、既に身につまされそうな雰囲気が漂います。私が当初、この物語を読もうと思ったのは、そこに惹かれたのではなく、この物語は「社会から取りこぼされた人たちを題材にしている」という点についてでした。 

川上未映子さんは、ご自身の生い立ちもあるのだと思うのですが、作品を通して、光があたりにくい「声をなかなか発することができない人」に視野を向け続けているように思います。特にこの『黄色い家』は顕著で、そこに感銘を受けて手に取ったのでした。

まず自分語りで恐縮ですが、私自身が「お金」に救われた経験をお話しさせてください。

私はデザインをやっているのに、ある側面でそれは自分とは縁遠いものと感じています。

自身は青森の田舎で育ち、東京に上京してきた経緯があります。初めはなんの苦もなく、東京の文化を楽しんでいたものですが、デザインを本格的に勉強し始めてからというもの、意匠を凝らし洗練されたデザインの家具や建物、空間を見るたびに、逆に田舎の風景を思い出し、なんだか悲しい気持ちになるのでした。

子供の頃見た、漁師のおっちゃんや商店のおばちゃん、靴下を片方しか履いていなかった小学校のクラスメイト、錆びれたトタン屋根、エホバの張り紙。

そういう光景に目をつむっていくような、自分のルーツに蓋をしていくような行為な気がして、とてもしんどい瞬間がありました。「洗練された美しいものを作りたい」という気持ちだけで突き進めないので、この職種は向いてないんじゃないかとさえ感じていました。そして未だデザイナーとは大きく名乗る気持ちになれません。

それでもデザインを編むこと自体は、とても好きなのでした。

 

この矛盾に一筋の答えを出してくれたのは、まさに「お金」でした。

私淑している同業のデザイナーさんが以前「デザインは人にお金を儲けさせられる手段だ」とおっしゃっていました。「美しくて洗練されていること」を目指す美術的な側面だけではない、どんな人にも「お金を生み出す手段になり得る」ということ。どこか上流階級のものに思われたデザインが、自分のルーツとも繋がり、 その言葉にどんなにか救われたことか。

「お金」はあらゆる人に通じる、「何かと交換可能な力」でもあって、一つのテーマだと思います。

 

– – –

 

この“力”になり得る「お金」は、希望でもあって、家族を守れる手段でもあって…あらゆることを解決できる魔法のようなものに思えます。だからこそ、それに取り憑かれると狂ってしまうこともあります。

『黄色い家』の中でも、主人公がだんだん「お金」に翻弄されていくのですが、主人公視点なので、その感情の流れがあまりにも自然で、全く違和感を覚えませんでした(そこが怖い!)

(人にどう思われようと)お金を守ろうとすることには、その人なりの強い信念や背景があるということ。それがとてもよくわかります。お金というのはモノではない、それと引き換えに得たい「形じゃない何か」があるのです。

 

そういう「お金」から派生して、金運を象徴する「黄色」。これもまたこの本のキーワードでした。

「黄色」は金運や希望の色でもあり、ゴッホが晩年に精神を崩した「黄色い家」の存在や、西洋では罪人に着せる服の色だった…など不安定な存在の色です。これだけで、ちょっともう不穏です。

主人公はこの「黄色」を風水的に信仰することで、精神的に追い詰められても、負けまいと自分を鼓舞し続けます。「風水」の信仰は、興味がない人にとっては、神社のおみくじに近いようなライトな信仰に思えるかもしれません。私も個人がそれぞれに持つ“信仰”には興味がありましたが、風水的なことは馴染みがありませんでした。

ですがこの物語を通して、「黄色」が金運アップの色である体感も、とてもよくわかるようになりました。今、お財布を黄色にしたい…気持ちです。 

 

それと、もう一つは「家」。この物語をきっかけにあらためて知ったのですが、日本語の「家」というのはさまざまなニュアンスを持ちます。日本語の「家」は、「家庭的な連帯」だったり「愛情に溢れた空間」だったり、果ては「ドロドロの愛憎まみれる関係」のニュアンスを含んだり。犬神家の一族のような、おどろおどろしい世界観までも指します。とても広い意味を持つ言葉です。(「黄色い家」の装丁には、英語でSISTERS IN YELLOWと記載されていますが、これは英訳したときにhouseは、建物としての「家」しか意味しないからなのだそうです。なるほど…)主人公の花は、この“家”を守るために、「お金」に捉われていきます。

この「いえ」という存在をもっと抽象化するならば、「生きるためになくてはならないもの」や「生きている実感を味わえるもの」なのかな、と思いました。それはもしかすると人によっては、「家族」や「生活」ではなく、芸術表現や推し活、スポーツである人もいるかもしれません(それはまだ少数派かもしれません)。「お金」はあくまで、この「いえ」≒「生きるためにほんとうに必要なもの」を守るための手段で、この順番を間違えた時に、人は「お金」に狂っていってしまうんだということが、体感として迫ってくる感じがありました。

 

  『黄色い家』では、「お金」「黄色」「いえ」、これらの多面的なことをテーマに、本当にリアルで生々しい感情の描写がされていました。引き込まれて一気に読んでしまいました。

 これを読み終わった後、「お金」に対する感じ方が上塗りされた感じがあります。

 とても重々しい読後でしたが、「人はなぜお金が大事なのか」、「お金の先に何を見ているのか」をよく考えさせられるお話でした。そして、自分にとっての「いえ」とは?

 

ちなみに「デザイン」という行為も、「いえ」を守るための営みの一つだと考えております。「デザイン」は、ほんとうに大切なことを探って、なるべくシンプルに心地よくそれを実現することです。 

 

 あなたにとっての「いえ」は何ですか?

 

…真面目な内容になってしまいましたが、よろしければ、おすすめいたします!

私は図書館で予約して、400人以上待ちで、1年近くかかってようやく読めました! 人気! 

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